アントニオ・ネグリ講演「大都市とマルチチュード」の御報告と
アントニオ・ネグリ氏の来日中止に関する声明
京都大学人文科学研究所では、3月25日、京都大学時計台・百周年記念ホールにおいて、「人文研アカデミー アントニオ・ネグリ講演『大都市とマルチチュード』」を開催いたしました。直前になってのネグリ氏の来日中止とプログラムの変更という不測の事態にもかかわらず、当日お集まりいただいた400名近い聴衆のみなさまに心から感謝いたします。また、今回のネグリ氏とそのパートナーのルヴェル氏の来日に際して、様々な催しを準備してきた諸大学の関係者から発表された『アントニオ・ネグリ氏とジュディット・ルヴェル氏の来日中止に関する共同声明』(http://www.negritokyo.org/)に連動して、人文研アカデミーでは、今回の講演会の準備にかかわってきた者を呼びかけ人とする「アントニオ・ネグリ氏来日中止に関する声明」を発表し、当日ご来場いただいた方々の有志138名に賛同をいただきました。以下、その声明を公表いたします。
私どもは、今後ともアントニオ・ネグリ氏の来日と京都での氏の講演会の実現に努力していく所存ですので、なにとぞよろしくご支援いただきますようお願い申し上げます。
大浦康介、岡田暁生、小関隆、王寺賢太、久保昭博、藤原辰史
アントニオ・ネグリ氏の
来日中止に関する声明
私たちは、哲学者アントニオ・ネグリ氏の来日を、氏の招聘元である国際文化会館とともに準備し、京都大学においてネグリ氏が参加する公開の講演と討論を企画してきた者である。2007年3月20日から4月4日の日本滞在中、ネグリ氏は、そのパートナーであるジュディット・ルヴェル氏とともに、私たちをはじめ、さまざまな人々と思想的・学問的・文化的交流を行う予定であった。しかしネグリ氏は、現在にいたるまで日本に入国していない。
私たちはその責任がひとえに日本政府にあると考える。外務省は入国予定の3日前、3月17日になって、それまで数ヶ月来国際文化会館とネグリ・ルヴェル両氏に伝えていた「入国査証は必要ない」との言を翻し、査証申請を行うよう要求してきた。そして、出発直前の極めて慌しいスケジュールの合間をぬって両氏から申請が行われるや、今度はネグリ氏に対し、自分が「政治犯」であった「書類上の根拠」を示せと要求したのである。入国管理法第5条4項「上陸の拒否」(「1年以上の懲役もしくは禁固またはこれらに相当する刑に処せられたことのある者」は「本邦に上陸することができない」)の但し書き(「政治犯罪により刑に処せられた者は、この限りではない」)による「特別上陸許可」を認めるためである。
アントニオ・ネグリ氏が「政治犯」であることはすでに国際的に承認されている事実である。彼は欠席裁判により有罪を宣告された――これは刑事裁判にかんしては「国際人権規約」上無効である――うえ、「国家転覆罪」というまさに「政治犯罪」の廉により、実行行為をともなわない思想上の影響という「道義的責任」を問われて、有罪とされた。だからこそ、フランス政府は1983年から1997年の14年間にわたり、イタリア政府からの身柄引き渡し要求にもかかわらず、ネグリ氏を保護したのである。その際、ネグリ氏に対して「政治亡命者」の法的身分が与えられていなかったとしても、それはフランス政府独自の外交的判断にもとづくものであって、ネグリ氏が「政治犯罪により刑に処せられた」事実をいささかも揺るがすものではない。ネグリ氏は1997年7月、現在もなおイタリアに存在する近過去の「政治犯」問題に一石を投じるべく、フランスからイタリアに自発的に帰国し、服役するが、これは彼が「良心の囚人」となったことを示しているのであり、すべての刑期を終えて完全自由の身となった2003年10月以降は、現在まで22カ国を歴訪し、そのどこからも日本政府からのような要求を受けたことはない。
さらに私たちにとっては、もう一つ看過しえないことがある。ジュディット・ルヴェル氏は短期滞在の場合には査証を免除されるフランス人であり、かつ「上陸の拒否」を云々できるような前歴はないにもかかわらず、その彼女にまで、外務省が査証申請を要求したという事実である。
ネグリ・ルヴェル両氏の来日をめぐる以上のような経緯に鑑みれば、今回の日本政府の対応は、両氏に対する事実上の入国拒否を企図するものであったと判断せざるをえない。かくして私たちとネグリ・ルヴェル両氏は、世界の22カ国ですでに行われ、これからも増えていくにちがいない国境を越えた思想的・学問的・文化的交流の機会を奪われた。両氏の移動の自由が侵害され、関係者すべての思想信条・学問の自由が侵された。私たちは強く抗議するとともに以下の点を日本政府に求めるものである。
(1) 入国3日前に前言を翻して査証申請を求め、アントニオ・ネグリ氏とジュディット・ルヴェル氏に甚大なる精神的苦痛を与えた点について、外務省は彼らに謝罪せよ。
(2) 法務大臣は今回の事実上の入国拒否の非を認め、責任を持ってアントニオ・ネグリ氏の過去の罪状を入管法上の「政治犯罪」と認定し、すみやかに「特別上陸許可」を与えよ。
(3) 日本政府は以下に署名する事業当事者、学生、聴衆の研究・学習・知的 交流の機会を奪ったことを認め、謝罪せよ。
2008年3月25日
京都大学人文科学研究所・人文研アカデミー
「アントニオ・ネグリ講演『大都市とマルチチュード』」
大浦康介、岡田暁生、小関隆、王寺賢太、久保昭博、藤原辰史