生と創造の探究——環世界の人文学

班長 藤原 辰史・石井 美保

本研究班は、2015年度から二年間にわたって行われた共同研究「環世界の人文学」の問題意識と成果を受け継ぎつつ、さらなる研究の深化と発展を目指す。本研究班の基底をなす問いは、人間を含む「生きもの」にとって「生きる」とはどのような営みであるのか、というものである。本研究班の課題は、生きものとその周囲の世界との相互作用と不断の変転に着眼しつつ、生命の持続と創造的な変容の過程を探究することを通して、従来の人文学からの脱皮を目指すことである。

ドイツの生物学者ヤーコブ・フォン・ユクスキュルは、生きものの営みと、その営みがなされる世界との相互関係を「環世界Umwelt」と呼んだ。この言葉が自然科学ばかりでなく、人文科学においても多大なる影響を及ぼしてきたことは周知のところである。ヴァイツゼッカーの『ゲシュタルトクライス』やその紹介者でもある木村敏の一連の仕事はもちろん、歴史学における環境史の活性化にも、人間と非人間の関係性を主題とする人類学的理論の深化や、近年の哲学等における「動物論」の隆盛にも、そのことは容易にみてとられる。人間と人間以外の「生」の営みを同じパースペクティヴで論じることを、先行者たちは試みてきたのである。

本研究班では、こうした先行研究を引き継ぎながらも、「環世界」を単なる抽象概念として扱うのではなく、生きもの相互の「あいだ」や「空気」、さらにはそれらの関係の中で生まれる技術や言説など、具体的な事象に寄り添いながら考えることを主眼に据えている。具体的な事例の検討と学際的な議論を通して、本研究班は、無文字の知も含めて生きものとしての人間が培ってきた「生き抜くための知」を多角的に探究していく。

近年の人間と自然をめぐるさまざまな齟齬や葛藤は、従来の自然科学や人文・社会科学では捉えきれないダイナミズムを有している。それは、総合的な知の営みであったはずの人文学それ自体の限界を示しているともいえる。人間を、人間そのものとしてだけではなく、その境界や「界面」から捉え直すことが、かえってより深く人間を理解することにつながるのではないか。本研究の根底にあるのはそのような問いかけである。

班員
岩城卓二・岡田暁生・小関 隆・田中雅一・瀬戸口明久・立木康介・森本淳生・
Irina Holca・池田さなえ・小川佐和子・田中祐理子・藤井俊之