オーラル・ヒストリー・アーカイヴスによる戦後日本映画史の再構築

谷川 建司

オーラル・ヒストリー・アーカイヴスによる戦後日本映画史の再構築
映画『乱』の三の丸炎上シーン

オーラル・ヒストリー構築の重要性は様々な研究領域で早くから認識され、いくつもの取り組みがなされてきた。映画学においても、監督、撮影監督、そして俳優など脚光を浴びやすい立場にいる者に関しては数多くの蓄積が存在する。しかし、裏方として映画製作を支えた現場スタッフ、出来上がった映画をどういう切り口で観客に提示するのかを担う宣伝マン、劇場との折衝を担当するセールスマン、直に観客と接する劇場スタッフ、ファンクラブ活動を通じて映画会社にフィードバックする役割を担う観客、といった人たちが、どのように映画に関わり日本の映画文化を形作ってきたのかは、これまで顧みられることがなく、それらの人たちの経験を参照可能な形に収集・蓄積する試みは全く行われてこなかった。

本研究は、映画史研究の欠落を補うべく日本の映画最盛期における製作・配給・興行・観賞という映画産業総体に亘る特徴的局面をその各現場において担った人々の証言として明らかにし、これに基づいて映画史を再定義する上での基礎資料を構築することが目的だが、そもそも日本における映画研究は美学・文学など人文科学系研究者による映像のテクスト分析の手法に偏っており、映画を産業として、あるいは文化制度・文化政策・観客に対する効果といった社会科学的関心から研究対象として扱うアプローチが不足している。映画は芸術である以前に“興行”、即ち娯楽として発達してきたものであり、その作品がいかなる形で作られ、あるいはそれがどのような切り口で観客に提示され、いかに受け取られたのかという側面も同様に重要なはずである。

研究会に招いたゲストへの聞き取り、研究会メンバーが各自でこれまで取り組んできたインタビュー成果の活字化支援を合わせて、三年間トータルでは30名のオーラル・ヒストリー・アーカイヴスとして今後の映画史研究において参照可能な形に整備すると共に、研究会において様々な学問分野のメンバーの専門的知見というプリズムを通してその映画史上の意味と影響を議論し、確定したい。

班員
岩城卓二、小川佐和子、小野容照、菊地暁、高木博志、高階絵里加、藤原辰史