近代古都研究

班長 高木 博志

近代古都研究
2007年10月14日、軍都・金沢の東の廓にて。定期的な「近代古都研究」の共同研究会の他に、奈良公園や大阪城、旧城下町・岡山・仙台、軍港都市・呉などの実地調査を行う。

今日、京都市への観光客は年間5000万人をこえ、空前の「古都」ブームである。また世界遺産登録を競い合う、国内外の歴史都市の顕彰も盛んである。そうしたなかで「古都」を相対化した学問研究も必要であろう。本来、「古都」とは、天皇がいなくなった「旧都」(もとのみやこ)の意である。1869 年の東京「奠都」による天皇の畿内よりの離脱は、古代から近世をつらぬく王権の基盤を編成替えする日本史上の事件であり、奈良・京都という古都形成の起点となった。

さて共同研究「近代京都研究」班(2003~2005 年度、丸山宏班長)を発展させ、歴史学・建築学・造園学・美術史等の諸分野の研究者による総合的な「近代古都研究」を行いたい。「古都」は近代に生みだされた概念であり、それは古都保存法(1966 年)以降の戦後社会に定着した。2003 年には古都保存法で大津が指定され、地方旧城下町も「古都」の対象になりつつある。また冠せられた「古都」イメージと都市行政のめざすものは、必ずしも一致したわけでない。たとえばつねに工業・産業振興を行政の基盤におく京都府や市の姿勢をみると、その理念と実態には歴史的にズレがあった。「歴史と都市」を一つの手がかりとして、京都・奈良・首里等の王権と関わった都市のみならず、金沢・仙台・岡山・大阪等の旧城下町といった「古都」を研究対象にしたい。各地の「古都」は、ナショナリズムの高揚とパラレルに、古代や平安時代や藩祖の開市時など、その特色となる時代や来歴を顕彰し「お国自慢」を定式化させた。前近代の「歴史」や「伝統」と、その近現代における捉え返しや葛藤を、政治・社会・文化・経済にわたる現実の中から多角的にみてゆきたい。学際的に近世から現代まで、自由な議論を重ねる中で、日本における「古都」論を考えたい。


所内班員
岩城卓二、金 文京、黒岩康博、高階絵里加、水野直樹