現代中国文化の深層構造(2010年度)

班長 石川禎浩

現代中国文化の深層構造
台湾の中正(蒋介石)記念堂で売られているTシャツ。毛沢東と蒋介石が1945年に重慶で会談した時の記念写真を配したものである。

現代中国文化は、まさに百花繚乱の状態にある。かたや伝統的学術すなわち「国学」の肯定的な見直しが進む中、世紀転換期を挟んで本格的に伝播したポストモダンの諸思潮も中国の知識界に大きな影響を与えている。民主化を求める声がインターネットを通じて伝播する一方、そのインターネット利用をめぐっては様々な公的規制が加えられ、それがさらに内外の議論を呼ぶなど、現代中国の文化は、同国の経済面の繁栄と相まって、世界の注目を浴びている。

だが、百花繚乱の如く見える現代文化は、芸術をとっても、思想をとっても、その中に歴史の刻印や記憶、そして政治との軋轢を内包していることを我々は知っている。歴史の刻印や記憶のいくつかは、例えば文化大革命や民主化運動弾圧のように、公的に巧みに封印されてはいるが、間違いなく文化の深層を形作っている。現代の中国文化が、歴史的にはどのように位置づけられるのかという問題に答えるには、例えば海外思潮の流入ひとつをとってみても、その歴史的経験(すなわち清末や五四新文化運動時期)との比較を踏まえなければならないであろう。本研究班は、こうした現代中国の文化の深層構造を、20世紀初頭から今日に到るおよそ100年を対象に、歴史学的手法によって解明しようとするものである。政治との関わりで言えば、新たなに形成されつつある現代中国文化は、旧来のイデオロギーと如何なる摩擦を抱えているのか、共産党型の政党文化は社会にどのように広まっていったのか、などの課題の解明が目指されるであろう。また、文化活動そのもので言えば、今日の芸術創作・思想潮流の多様化は、清末から民国時期の文化的カオスと類似の状況なのか、そしてそもそも中国という文明体系が近代以降の異文明との接触の中で、それへの接合をはかるということは世界史の上でどのような意味を持ったのか、これらがすべて俎上に載せられるであろう。


所内班員
岩井茂樹、水野直樹、村上 衛、山崎 岳、小野寺史郎、武上真理子