元代雑劇の研究

班長 金 文京

中国元代に流行した雑劇(いわゆる元曲)は、中国におけるもっとも早い本格的な演劇であり、また脚本が現存するもっとも早い戯曲文学でもある。ただしその大部分は、次の明代になって刊行または書写されたものであり、後代の改変を多くこうむっている。元代当時のもとの姿を伝えるのは、『元刊雑劇三十種』に収める三十の作品があるのみであるが、このテキストは誤字脱字が多いうえ、台詞がほとんどなく、歌詞のみを記しているため、難読をもって知られている。そのためこれまで中国で三種類の校注本が出版されているが、不明の個所はなお多い。

本研究班はこの点に鑑み、『元刊雑劇三十種』を精読することによって、綿密な校注および日本語訳を作成することを目的とする。本研究所では、その前身である旧東方文化研究所時代の一九三九年に、元曲の語彙辞典の編纂を目的とする研究班が組織されたことがあり、その成果は、『元曲釈詞』として公刊された。本研究班はその伝統を受け継ぎ、元曲研究をさらに進めようとするものである。


班員
赤松紀彦、小松謙、佐藤晴彦、高橋繁樹、高橋文治、竹内誠、土屋育子、松浦恒雄、宮紀子