近代天皇制と社会

班長 高木博志

近代天皇制と社会
吉田初三郎「歴代御陵巡拝図絵」(1928年)部分

現在、大山古墳(現・仁徳天皇陵)、誉田御廟山古墳(現・応神天皇陵)を擁する5世紀以前の百舌鳥・古市古墳群は、「天皇家の祖先の墓」としての性格を考慮して、文化財としての史跡に指定されずに、「秘匿」されたまま、世界遺産に登録されようとしている。その背景には、20世紀の歴史学や考古学の学知を乗り越える、明治維新以来の「万世一系」観念の変わらない影響力がある。このこと一つとってみても、現代の象徴天皇制の前提となる、19世紀以来の天皇制の歴史的性格の考察が必要であろう。

昨今、歴史研究において、天皇制を国家や社会とのかかわりで考えることが少なくなり、「天皇」個人や「天皇像」といった研究に流れがちである。そのようななかで、単なる政治過程ではない、「近代天皇制と社会」を対象とすることにより、日本の近現代を考えてみたい。ひとつには明治維新からアジア・太平洋戦争にいたる過程を、「近代天皇制と社会」から考えることで近代日本の特殊性や普遍性を再考したい意図もある。

近世後期から近現代までを見通して、町や村といった地域や、文化・宗教・思想・教育・社会運動・民俗などを視野に入れた広い意味での「社会」と天皇制との関係を考えてゆきたい。研究会では、もちろん「政治」の重要性を否定するものではない。政治史・教育史・文化史・思想史・運動史・美術史・植民地研究・民俗学・地域史などの諸分野の研究者とともに考えてゆきたい。


所内班員
岩城卓二・高階絵里加・池田さなえ