石原都知事発言の歴史認識の誤りを批判する声明

  石原慎太郎東京都知事の4月9日の陸上自衛隊記念行事、およびその後の記者会見等における発言は、歴史事実についての誤りを含んでおり、日本社会から未だ払拭されていない在日外国人差別を増幅させるものです。

  私たちは、石原氏の発言のなかで、特に在日朝鮮人の歴史にかかわる「三国人」発言、および大規模災害時の外国人による「騒擾」についての発言に対して、朝鮮史研究者の立場から誤りを糾し、正確な歴史事実に基づいた認識の必要性を社会に訴えます。

  石原氏は4月9日「不法入国した多くの三国人、外国人」と発言し、この「三国人」という表現に批判の声が上がると、辞書には「第三国人」の第一義として「当事国以外の国の人」と書いてあり、「外国人」の意味で使ったと釈明しました。しかし言うまでもなく「三国人」は「外国人」と同義ではありませんし、そもそもここで「三国人」という用語を使用しなければならない理由は全くありません。

 一方で「三国人」という語は、石原氏も認めるように、敗戦直後の時期、日本在住の朝鮮人や台湾人などを指す言葉として使用されました。この語の由来は明確ではありませんが、当時、日本の警察当局などは「第三国人」を、連合国人や中立国人ではないが、日本人とも同一の地位ではない「従来日本の支配下にあった諸国の国民」という意味で用いていました。こうした用法は、第二次大戦後に日本を占領した連合国側が、植民地支配から解放された在日朝鮮人などの法的地位を曖昧に規定したことに端を発すると思われ、日本の政府やマスコミなどを通じて広く日本社会で使用されるところとなりました。

 敗戦直後「(第)三国人」という語が、朝鮮人・台湾人に対する侮蔑意識や反感を込めて使用されていたことは疑う余地がありません。そしてこのような意味での「(第)三国人」という語は、戦後長きにわたって是正されることなく使われてきました。たとえば1970年発表の劇画「おとこ道」(梶原一騎原作、『少年サンデー』連載)では、「最大の敵は、日本の敗戦によりわが世の春とばかり、ハイエナのごとき猛威をふるいはじめた、いわゆる第三国人であった!!」「殺られる前に殺るんだ、三国人どもを!!」などと記されています。こうした朝鮮人・台湾人を敵視し、侮辱する文脈で用いられた言葉をいたずらに使用すれば、朝鮮人や台湾人に対して未だに差別意識をもっていると受け止められても、やむをえないのです。

  敗戦直後に日本に滞在していた朝鮮人の大多数は、日本の植民地支配の結果として日本に渡航してきた人々でした。しかし敗戦直後の日本政府は、朝鮮人を「日本国籍の保持者」として日本の法秩序に服することを要求し、民族教育運動などに弾圧を加えながら、一方で朝鮮人の基本的人権を制限しようと「外国人」として取り扱うこともしました(参政権の事実上の「剥奪」、外国人登録令の適用など)。日本政府は朝鮮人に対し、このような相矛盾する二面的な態度を取り、日本社会における朝鮮人差別も依然として温存されていたのです。 今回の石原氏の発言は、こうした「(第)三国人」という語が持つ歴史的な背景を無視し、朝鮮人があたかも日本社会に敵対する存在であるかのようなイメージ
を喚起するものであり、とうてい見過ごすことはできません。

  石原氏はまた、4月9日の陸上自衛隊記念行事で、「不法入国した多くの三国人、外国人」により「大きな災害が起きたときには大きな大きな騒擾事件すら想定される」と述べ、大規模災害に際しての自衛隊による治安維持の必要性を強調しました。石原氏はさらに、4月12日の都庁での会見で、阪神大震災では騒擾事件の事実はなかったと指摘する記者に対し、「東京の場合にはもっと凶悪な犯罪をたくさんしている不法入国、不法駐留の外国人がたくさんいる」と反論しています。しかし、「不法入国、不法駐留の外国人」が大規模災害に際して「騒擾」を起こすと判断できる根拠はありません。

  関東大震災では、朝鮮人に対する差別と偏見から生じた先入観から、まさに「治安維持」の主体であったはずの軍隊や警察が、「朝鮮人暴動」という流言を広めて人々の不安をあおり立てました。その結果、自警団を中心とした民衆によ
る朝鮮人に対する虐殺が発生し、軍隊もそれに加わって、6千人以上とも推定される朝鮮人が殺されました。石原氏は4月12日の会見で「あの時は日本の当局が守り切れなかったから、朝鮮人に被害が出た」と述べていますが、この発言は右の事実に照らせば全くの誤認であって、むしろ実際は、軍隊や警察が危険な朝鮮人という予断を持っていたが故に、このような悲劇が起こったといえます。

  大規模災害において、確たる根拠もない予断こそが、不法在留であるか否かを問わず、在日外国人に対する不当な迫害を生む土台となることは明らかです。歴史的観点からすれば、石原氏の発言は、いわれなき在日外国人差別を増幅させ、ふたたび関東大震災の時のような過ちをもたらしかねない危険性を孕んでいます。

  なお、石原氏は4月12日の都庁での会見で「北鮮」という言葉を使っています。この言葉は日本が朝鮮を植民地支配している当時、朝鮮北部ないしは朝鮮東北部を指す言葉として使われ、さらに朝鮮民主主義人民共和国の成立の後には、その蔑称として使われてきたもので、石原氏の政治的立場にかかわらず、不適切な言葉遣いであることを指摘しておきます。

  以上のように、石原氏の発言は誤った事実認識に基づくものです。これは、東京都知事としての権限と社会的影響力を持つ立場からは、無責任な発言だといわざるをえません。朝鮮史研究会は、石原氏の発言に含まれた事実認識の誤りを糾すとともに、歴史研究の成果を無視した発言に対して強く抗議します。

  私たちは、在日朝鮮人が戦前・戦後をつうじて経験させられてきたさまざまな差別問題を正しく認識し、かつ現存する制度的差別(外国人登録証携帯義務など)あるいは社会的差別(就職差別など)の問題を是正していくことこそが、日
本社会が取り組むべき緊要な課題であると考えます。この歴史的課題の解決なしには、在日外国人との共存という今日的課題も達成困難であると思われます。今回の事態を教訓とし、都関係当局においても、これらの課題に対して真摯に取り組むことを切望します。

  最後に、私たちは、研究活動を通じて在日朝鮮人差別の解消に寄与できるよう、一層努力することを表明します。

                                               朝鮮史研究会幹事会


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