韓国学術情報のインターネット検索事始め

                                                     水野直樹


『別冊本とコンピュータ3  コリアン・ドリーム!』(編集/「本とコンピュータ」編集部、
発売/トランスアート、2000年7月)に掲載された文章を加工したものです。

小見出しは編集部によるものです。


インターネットは、世界中で朝鮮・韓国研究の情報を共通の財産として利用することを可能にした


   私の専門領域は朝鮮近代史である。歴史の研究というのは、「古い」情報から新しい意味を汲み出すような作業である。新しく発見された資料=情報を利用する場合ももちろんあるが、概してすでに知られている情報、あるいは入手しようとすればそれほど困難ではないような情報をもとにして、歴史を再解釈し、歴史像を再構築するのが、歴史研究の主要な役割であろう。

   ところが、この二、三年、私の研究環境は大激変した。もちろんインターネットのおかげである。インターネットの登場によって、「知られている情報」「入手し得る情報」の範囲が一挙に拡大してしまったのである。数年前までであれば、必要な情報・文献は、図書館のカードとか、各種の目録とかを見ることによって探し出すというのが普通だったのが、今やWebにつながるコンピュータなしには情報の探索はできなくなっている。

   歴史に関わる学術情報に限られるが、インターネットを通じて韓国の学術情報を入手している私の経験を記してみたい。

    四年前まではワープロとしてしか使っていなかったパソコンが急に変わったのは、やはり大学のLANに接続するようになったためである。メールやインターネットを経験すると、その便利さには勝てない。毎朝研究室に入ってまずパソコンのスイッチを押さないと仕事が始まらないという状態になった。そのうち自分でもホームページ〔朝鮮近代史のページ〕を作成してみようと思ったのが、三年前。ホームページを作りながら感じたのは、韓国の学術情報サイト(特に歴史関係)が日本ではあまり紹介されていないということである。韓国のWebサイトのリンク集は多いが、学術情報サイトに限ったものがないため、そのような情報を入手したい者にとっては、実は役に立たない。

   それで私が使って便利だと思ったサイトへのリンクを一覧にしてみた。それは自分自身のために作ったものだが、ホームページにも「朝鮮研究のためのリンク集」と銘打って載せることにした。友人たちは結構利用してくれているようだ。
 

日本にいながら情報を得る

    リンク集を作った二年半前に比べると、最近では韓国の学術情報サイトも急成長を示している。

   韓国の学術情報サイトを利用するには、いうまでもなくハングル環境が必要である。特にデータベース類を利用しようとすれば、韓国の標準であるKSコードでハングルを入力するソフトがなければならない。また、最近構築されつつある電子図書館(本文の閲覧など)の場合は、OSレベルでハングル環境を整える方が使いやすいようである(私はまだ日本語Windowsで済ませているが)。

    もう一つ注意しておかねばならないことは、日本語文献を探す場合でも、単語や人名などの検索語を朝鮮語音で入力しなければならないことである。KSコードで漢字を入力する場合もそうだが、漢字の朝鮮語読みを知っておかないと、データベースは利用できない。多くの場合、漢字よりハングルで検索語を入力する方が、ヒットしやすいようである。

   私がインターネットで韓国の学術情報を入手しようとした時、最初に試みたのは、韓国で書かれた単行本や論文の情報である。歴史関係では、国史編纂委員会The Korean Historical Connection(弘益大学) が目録データベースを提供している。

   次いで便利なのは、文献の所蔵情報である。国立中央図書館国会図書館、あるいは各大学が所蔵文献のデータベースをインターネットで利用できるようにしている。昨年くらいからは、韓国の主要大学図書館が所蔵する文献の総合目録(韓国大学図書総合目録)が使えるようになった。日本のNacsis-Webcat(旧文部省学術情報センター、現在国立情報学研究所)のようなものである。私にとってありがたいのは、日本の支配期に刊行された日本語の文献もこれで検索できることである。

   私は最近韓国に行って文献を探すということをしなくなっている。印刷された文献であれば、大部分インターネットで所在を知ることができるので、知り合いに頼んでコピーを送ってもらうという安易なやり方で済ませているからである。

   最近の出版物は、書店のデータベースで探索することができる。教保文庫鍾路書籍などである。これで知った本を書店から直接郵送してもらうこともできる。

   近現代史の研究には、新聞の情報は不可欠であるが、この点でもインターネットは役に立つ。記事のデータベースを無料で公開している新聞社もあるが、何と言っても便利なのは韓国言論財団が提供するKINDSというデータベースである。これは一九九四年以降の主要新聞の記事を検索し、本文も閲覧できるものなので、日本にいる者にはありがたい。

   朝鮮日報社のホームページでは、一九二〇年の創刊以来の記事データベースが利用できるので、私などにはたいへん便利である。ただし、すべての記事が対象になっているわけではなく、一九四〇年までは「抗日記事」「文芸記事」などすでに冊子体で目録が刊行されているデータしか入っていないのは残念である。

   一九四五年から四八年までの主要記事のデータベースと本文情報は国史編纂委員会のホームページで見られる。

    ただし、このようにして入手した大量の情報に溺れて、自分自身の研究が進まない場合もある。韓国では修士課程終了時の論文も図書館などの文献情報に含められているため、何かのテーマで検索すると、いくつもの修士論文(韓国では「碩士論文」と呼ぶ)が出てくることがある。存在を知った以上、読まないわけにはいかない。知り合いに頼んで、相当な分量の修士論文を送ってもらうということもよくある。情報が多くなると、それだけ消化するのに時間と手間がとられることにもなる。

   最近、韓国政府が特に力を入れているのが、「国家電子図書館」の構築である。中央図書館国会図書館などの所蔵文献をデータベース化し、本文の閲覧もできるようにしようという計画らしい。すでに中央図書館では、「古書」「韓国古典百選」「旧韓国〔大韓帝国〕官報」「朝鮮総督府官報」「朝鮮総督府発刊韓国関連資料」などの原文をイメージ・デジタル化して閲覧できるようにしており、今後も順次追加される予定と聞く。以前であれば、中央図書館に直接行って閲覧を申請し、長い列ができたコピー室で必要部分を複写していたのが、自分のコンピュータの画面で読むことができ、プリントも簡単、という時代に入ったのである。
 

日本から朝鮮研究情報を発信する

   しかし、韓国の学術情報サイトを利用させてもらうだけでは、一方通行に終わる。日本には朝鮮研究に必要な情報が非常に多いのだから、これらをインターネット上で公開することによって、韓国はもとより世界の朝鮮研究者に情報を提供することが我々の義務でもあろう。

   ささやかながら、私自身が運用しているサイトで、「戦後日本における朝鮮史文献目録」(データ提供:朝鮮史研究会)と「戦前日本在住朝鮮人関係記事検索」という二つのデータベースを提供している。後者は、在日朝鮮人に関わる日本の新聞記事見出しのデータベースで、友人たちと協力してデータの収集・入力などの作業をしている。これらはどこかから資金が出ているわけでもないので、より完全なものに近づけるため利用者からの情報提供を取り入れる試みをしている。

   歴史に限らない各分野の研究文献に関しては、「朝鮮関係論文データ検索システム」(金明秀氏のホームページ Han World、データは神戸のむくげの会提供)がある。

   ごく最近、東京大学東洋文化研究所のホームページで、「日本所在近代朝鮮関係書籍データベース」(宮嶌博史研究室)が公開された。一九四五年前後までに刊行された朝鮮関係の文献を所蔵機関も含めて検索できるデータベースである。朝鮮研究者、特に近代史の研究者が長年待ち望んでいたものである。

   インターネットを通じて、世界の研究者・市民がさまざまな学術情報を共通の財産として利用することが可能になりつつある。朝鮮・韓国研究の分野でも様々な形でそれを実現する努力がなされることを期待したい。



〔関連ホームページURL〕

朝鮮近代史研究のページ(水野直樹) http://www.zinbun.kyoto-u.ac.jp/~mizna/
国史編纂委員会 http://www.nhcc.go.kr/
「The Korean Historical Connection」(弘益大学) http://www.hongik.ac.kr/~khc/
国立中央図書館 http://203.237.248.5/
国会図書館 http://www.nanet.go.kr/
「韓国大学図書総合目録」(韓国教育学術情報院KERIS)http://www.kric.ac.kr/UNIONhtm/union_index.htm
国家電子図書館 http://www.dlibrary.go.kr/
鍾路書籍 https://club.shopping.co.kr/seoul/book/
教保文庫 http://www.kyobobook.co.kr/
韓国言論財団 http://www.kinds.or.kr/
朝鮮日報社 http://db.chosun.com/
「朝鮮関係論文データ検索システム」(Han World)http://www.han.org/a/
「日本所在近代朝鮮関係書籍データベース」(宮嶌博史研究室) http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~koreandb/



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