以下の公開講演を開きます。関心のある方、ありそうな方をお誘いの上ご出席下
さい。たなかまさかず

京都大学特別公開講演のおしらせ
2月23日(月)14時半、京都大学人文科学研究所西館会議室(東一条)
報告者 中村宏 画家
演題  絵画者とはだれか?

略歴
1932年静岡県に生まれる。1955年まで日本大学芸術学部美術学科に在学。
在学中 の1953年、山下菊二、尾藤豊、桂川寛、池田龍雄らと日本青年美術家
連盟を結 成。また、井上長三郎、丸木位里、吉井忠らの結成した前衛美術会の
主催するニッポ ン展に1953年の第1回展から59年まで出品。1960年
以降は前衛美術展とな る同会主催の展覧会に出品を続けている。1954年か
ら61年まで日本美術会の日 本アンデパンダン展に、1960年国立近代美術
館の「超現実絵画の展開」展に、1 966年山下菊二、立石紘一と3人の日本
人展を、横尾忠則、立石紘一、篠原有司男 と「美術の中の四つの『観光』」展
を開く他、現代日本美術展、国際青年美術家展に 出品する。1981年82年
には、東京国立近代美術館、京都国立近代美術館の「1 960年代−現代美術
の転換期」展に出品。政治的社会的テーマや、偏執的な愛着を 持つ飛行機、汽
車、セーラー服の女子学生を、シュルレアリスムの影響のもとに、誇 張した遠
近法の組み合わせとモンタージュ技法によって描き出す。

中村氏の著作『絵画者』について
◇独自の画論で時代を撃つ
 戦後の反米軍基地闘争を主題にした作品。あるいは、蒸気機関車やセーラー服
の女 学生を描いた60年代のシュールな作品で、つとに知られた画家である。
美術界きっ ての論客としても鳴らすが、半世紀近い言説の軌跡がこの1巻本に
集成された。「書 名は『かいがしゃ』と読んでも『かいがもの』と読んでもか
まいません」。忍者や伊 賀者のように、絵画に命をかける者でありたいという
意味だろう。 政治的な前衛絵画 から、非政治的、非絵画的なモダニズムの前衛
へ。戦後の美術思潮が激しく移り変わ っていく中で、一貫して絵画に徹する自
己の立場を守り通してきた。その立場をあえ て「アナクロニズム」と称し、本
書中にも「すでに死んだもの、見すてられたものを 蘇生(そせい)させること
に、エロティシズムを感じる私は、それ故に『タブロー』 (油彩画)に対して、
フランケンシュタイン博士でなければならないであろう」とい う有名な一節を
残している。 「今までの文章をまとめるにあたって、念頭に置いたの は、時代
の流れを自分に引き寄せてみたいということでした。自発的にではなく、外 か
らの依頼で書いたものが大半ですが、それでも時代とかかわって出てきた言葉が
あ るとすれば、それが何を語っていたかを自分なりに再確認しようと思ったん
です」 た とえば絵画創造の主体とは、たんなる「表現」ではない。そこに描き
手の「見る」と いう行為=「観賞」が合わされて、初めて創造が成り立つとい
う画論は、「観賞」が 抜け落ちた50、60年代の「表現主体論」への、強烈
なアンチテーゼとなった。の みならず、画家・ダリ、文学者・稲垣足穂、舞踏
家・土方巽ら異端の巨人たちをめぐ る論評も、また独特の反時代意識をにじま
せながら読む者をぐいぐい引き込んでい く。 ダリの地平線、足穂の少年愛、土
方の肉体。それぞれのこだわりの中に、時流を 超越した精神がのたうっている
のを感じました。彼らの評価に駆り立てられたのも、 時代から追放されようと
している絵画への愛惜と、どこか重なる部分があったからで しょうね」(毎日
新聞2003年9月14日東京朝刊から)

著作
1972『呪物記』大和出版
1973『機甲本イカルス』稲垣足穂との共著
2003『絵画者』美術出版社

画集は『望遠鏡からの告知』、『タブロゥ機械』や『図画蜂起』など。

参考資料
【松岡正剛の千夜千冊 第43話より】 ぼくの結婚式の仲人は中村宏である。10
人 たらずの結婚式を目黒の大鳥神社であげた。そのまま京都の稲垣足穂の家に
行った。 そのときも中村宏夫妻が同行した。中村宏はそのような新婚旅行は前
代未聞だと言っ て、半分笑い、半分は気の毒そうな顔をしていた。【同 第一
二三話より】 中村宏が「あのメルロ=ポンティの『眼と精神』ね、あれ はダ
メだね。レンズと精神じゃなきゃダメなんだよ」と言った。いまは『ドルメン』

編集長をしている田中基といまは東大出版会にいる門倉弘は、ふーんとすぐ頷い
た が、ぼくは『眼と精神』を読んでいなかった。

【俳優 佐野史郎の日記より 2000年11月3日】昨日は中村宏氏の個展の
初日 なので、銀座のスパンアートギャラリーへ出かけました。中村先生は、1
974年、 僕が美学校の油彩画工房に通っていた時の先生です。セーラー服、
機関車、飛行機と いったモチーフで世界と向き合った、60年代には最も先鋭
的な活動をしていた方で す。近年も遮断機などを題材に、意欲的に活動を続け
ておられます。で、美術出版社 から『図画蜂起』という、これまでの作品の集
大成的な本を出版された記念展でもあ るわけです。会場にはお元気そうな中村
先生はもちろんのこと、種村季弘さん、秋山 祐徳太子さん、松田政男さんなど
のお顔も見えました。