第一次世界大戦開戦原因の再検討 ―民衆心理と政治の罠― 

小野塚知二

2014年12月 6日

第一次世界大戦は20世紀最初の、また20世紀全体を規定した最大の失敗といってもいい大事件ですが、その原因については意外なほどに貧弱な解釈か、逆に複雑で難解すぎる複合要因論しか用意されていません。この報告では、まず従来の開戦原因論にはいかなる謎が残されているかを指摘したうえで、開戦前のヨーロッパ諸国の多面的な共通性に注目しながら、それらの謎を解くための長期的かつ包括的な解釈枠組の仮設を目指しま す。そこから浮かび上がってくるのは、1870年代以降の「国民の社会化」・「経済政策の国民化」という状況の中で、長い時間を掛けて、愛国的な民衆心理を動員し育成してきたナショナリズムの世論と政治との相互規定関係を通じて、開戦直前には政治がそうした民衆心理を裏切ることのできない地点に追い詰められていたという、1920年代にはごく常識的だった開戦原因論です。古い常識を再確認しながら、近年の第一次世界大戦史研究では、なぜ開戦原因論が軽視され、また、民衆的な原因論が「戦争熱神話」の一語で片付けられているのか、そこには欧米の研究のいかなる問題点が潜んでいるのかという点にも論及したいと考えています。素人のにわか勉強ですので、ご専門のみなさまからの率直なご批判を期待いたします。

アランの哲学と第一次大戦

田中祐理子

2014年11月10日

本報告では、アラン(1868-1951)が第一次大戦での従軍体験をどう受け止めたのかを読むことを通して、19世紀を通じて発展していたフランス哲学の一つの流れが、どのように第一次大戦と出会ったと言えるのかを、探りたいと考えています。主には『マルスあるいは裁かれた戦争』(1921)と『わが思索のあと』(1936)を中心に、大戦後にアランが自らの経験をどのような哲学にしようと試みたのかを考察します。この哲学には後に多くの批判が向けられることになりますが、アランの哲学が捉えそこなった、あるいは受け止めそこなったことの中に、20世紀初頭の短い時間にしか成立しえなかった哲学史の独自の経験があったのではないか、そのように仮定して、ここに20世紀哲学史の一つの転換点を求めてみたいと思います。よろしくお願いいたします。

第一次大戦は、いったいなにを終わらせたのか? ― 英米文学史の視点から

三原芳秋

2014年10月25日

英(米)文学史の一般的な理解では、第一次世界大戦がもたらした「精神的荒廃」の中から、まったく新たな「モダニズム文学」が生まれ、1922年という「奇跡の年」(T.S.エリオット『荒地』やジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』といった記念碑的作品が一斉に登場した年)を迎えた、とされる。もちろん、このような理解には多くの点で妥当性が認められるが、同時に、この「奇跡」の担い手たちのほとんどは大戦争とは直接かかわっていなかったり、いわゆる「英国」人でなかったりと、一概にナショナル・ヒストリーとしての文学史には収めることのできない要素が多分にある。本研究班が、主に欧州大陸の文学・美術・音楽などの事例でもって今までに明らかにしてきたように、大戦争によって「突如としてなにかが始まった」とするよりは、「すでに始まっていた」さらには「むしろ、なにかが終わった」という視点から考える方が実情に近いのかもしれない。今回の発表では、大陸との「時差」も考慮しつつ、英(米)文学の事例をいくつか提供することにより、研究班のみなさんと議論を深めることができれば、と考えている。

戦争とオブジェ

Stephane Audoin-Rouzeau

2014年10月 4日

第一次世界大戦と朝鮮独立運動

小野容照

2014年2月24日

第一次世界大戦と朝鮮独立運動の関係については、ウィルソンの民族自決主義に触発されて展開した三・一独立運動に関心が集中し、大戦の勃発や認識など、大戦が独立運動に及ぼした影響についてはほぼ未解明である。 本報告では、第一次世界大戦と朝鮮独立運動の関係性を、とくに「世界性」をキーワードとして、大戦を契機に朝鮮独立運動がいかに世界と繋がっていったのかという点を中心に、出来る限り明らかにしていきたい。 具体的には、1. 大戦の勃発と朝鮮独立運動、2. 民族自決・ロシア革命と朝鮮独立運動、3. 終戦後の朝鮮社会の改造と世界認識、の三部構成で検討する。

第一次世界大戦と科学史

瀬戸口明久

2014年2月10日

本報告では、これまでの科学史研究(とくに日本を対象とした科学史研究)で、第一次世界大戦がどのように論じられてきたのか振り返り、科学史と第一次大戦研究の接点を探っていきたい。現在の科学研究体制は、20世紀後半の冷戦期に確立されたものである。このような視点に立つ限りでは、第一次世界大戦は初期の通過点に過ぎない。このような歴史叙述は、廣重徹『科学の社会史』(1973)によって確立された。この報告では、廣重以降の科学史研究の展開を紹介し、これまでの研究蓄積から残された課題について考える。