西陲發現中國中世寫本研究

班長 高田 時雄

西陲發現中國中世寫本研究
敦煌莫高窟第16窟。右端に見える小さな入り口が、1900年に發見されたいわゆる藏經洞(第17窟)。これは1907年にスタインが撮影した寫眞で、取り出された經卷が脇に積み上げられている。

20世紀初頭、ヨーロッパ諸国や日本の調査隊によって、甘肅、新疆の遺跡で数多の古写本が発見された。漢文写本がもっとも多いが、他にもチベット語、コータン語、ウイグル語、トハラ語など古代言語で書かれた写本もあり、古代西域の歴史、社会、文化、宗教を研究する貴重な資料である。なかでも敦煌や吐魯番から発見された文献は最も豊富で、世界各国に分散しているために、それぞれ敦煌学や吐魯番学といった国際的な研究分野が形作られてきた。

ところが21世紀に入った現在、これらの写本研究はまったく新しい段階に入ったといえる。その第一は、世界各地に所蔵されている写本の公開が進み、研究者の写本に対するアクセスが格段に改善されたことである。大型の図録出版によってほとんどすべての写本が居ながら閲読できるようになった。また新しい技術の発展により、ネット上で精細なカラー画像が見られるようになった。第二は、データベースの発展によって、これら写本のテキスト検索が可能となり、そのコーパスは日々完全なものに近づきつつあることである。こういった研究環境の変化は、当然ながら研究方法の改変に繋がらざるを得ず、国際的な連携に基づく、より網羅的、より総合的な研究が要請されることになる。本研究班はその動向に即応し、日本として然るべき貢献を果たすために組織された。

対象は既知の写本だけではない。近い過去においても、莫高窟北区の新出写本が報告されたり、吐魯番の墓葬からは新中国になって以降も続々と写本が発見され、資料は今なお着実に増加しつつある。さらに倉庫に眠っていた過去の調査隊による発見品が新たに発掘されるような事例すらある。新しい環境のもとで新しい研究を展開する条件は今こそ熟しているというべきである。


班員
池田 巧、永田知之、藤井律之