唐代道教の研究

班長 麥谷 邦夫

唐代道教の研究
顔真卿「麻姑仙壇記」(宋拓本)
顔真卿はじめ唐代の多くの知識人にとって、道教は仏教とともに極めて身近な存在であった。図は漢代の女仙麻姑にゆかりの麻姑山仙壇について記したもの。

中国には主要な宗教が五つ存在する。儒教、仏教、道教、回教、キリスト教である。このうち後二者が普及したのはかなり遅いのに対して、前三者は紀元二世紀後半からさまざまな形で互いに交渉をもちつつ、中国の社会や文化に大きな影響を与えてきた。この三者の相互交渉を称して三教交渉という。

三教交渉の過程では、互いを非難しあう論争ばかりが主役であったわけではない。とりわけ道教は仏教教理の多大な影響を受けて自己形成を遂げてきたのであるが、仏教もまた儒教や道教の影響を受けて、インド仏教とは似て非なる中国仏教へと変貌してきたのである。この過程で、互いに相手のどのような部分を受容し、どのような部分は受容しなかったのか、その結果、それぞれがどのように変容していったのか。その過程を分析することによって、ふたつの大きな文明それぞれの本質を明かにする手懸りが得られよう。本研究班の最終的な目標は、三教論争関係の資料をはじめとするさまざまな資料をもとに、三教交渉の諸相を分析することを通じて、中国の思想・宗教ひいては中国文化そのものの本質がいずこにあるのかを明かにすることである。このような作業の先には、中国を経由して仏教を受容してきた日本文化の本質もおのずから垣間見えてくるに違いない。

本研究班は、以上のような見通しのもと、六朝から唐代にいたる時期における仏道両教の交渉、なかんづく道教教理に対する仏教教理の影響に焦点を当てて共同研究を進める。具体的には、『太玄真一本際経』や『海空智蔵経』といった経典類ではなく、王玄覧『玄珠録』をはじめとする仏教教理を大幅に取り入れた唐代の道教論書のいくつかを分析の対象として、その教理構成の特色や思想的背景を解明することを主要な目的とする。


班員
ウィッテルン,C、古勝隆一、船山 徹