●真本:古鈔本《真本千金要方》の略。宮内庁書陵部蔵、巻第一のみ残存。オリエント出版社影印本を使用しました。今回の範囲では、桜井氏訓注では一ヶ所、朱書きされているところがあるだけでしたが、改めて校勘しました。
●静嘉堂文庫本:宋版《新雕孫真人千金方》の略。静嘉堂文庫所蔵、巻一〜五、十一〜十五、二十一〜三十が宋刊の部分。オリエント出版社影印本を使用しました。桜井氏訓注では「静嘉堂本」あるいは「静本」として引かれています。
●宋改本:《備急千金要方》の略本。江戸医学館本(江戸医学館模刊本)・嘉永2年(1849)刊が校訂され実用上の利用価値が高いとされ、桜井氏訓注では「江戸医学館本」あるいは「江本」として引かれています。今回、森泉は南宋刊本『備急千金要方』、国立歴史民俗博物館所蔵(重要文化財指定)、オリエント出版社影印本を使用しました。
●張湛:東晋の学者、高平の人、『養生要集』十巻(佚)を撰す。
●経方:
●内外:陰陽・表裏・深浅・臓腑と症状・原因(本質)と結果(現象)・等を含めた対概念。
●營衛:営気(営血)は脈の中をめぐり、衛気は脈の外をめぐって、全身を栄養・防衛しています。昼夜(睡眠と活動)のリズムとの関係もあります。
●弦緊:脈状(脈の太さ細さ、緊張度、ここではおそらく内因と外因も含んだ脈状を示しているように思われます。)
●神:霊妙な心、霊妙なはたらき。神秘的な力。すぐれた精神。
●神授:神からのさずかりもの。天の与え(天賦)。
●大慈惻隠之心:広大なめぐみ(慈悲)、あわれみいたむこころ。
◎大慈惻隠之心:大慈とは、非常に大きないつくしみを意味し、観世音菩薩の徳をほめたたえる仏語。時代は下り、曲直瀬玄朔(1549~1631)は、啓迪院門下法則十七ヶ条の中に、慈仁を専らにすべしと規定している。惻隠とは、あわれみいたむことであり、『孟子』巻三公孫丑上に、「惻隠之心は、仁の端(はじめ)なり」とある。(杉立義一著『医心方の伝来』より)
●含霊:人間。人類。
●研蚩・妍?(ケンシ):美醜、好嫌、巧慧と侮。
●華夷:中国と外国。ここでは同族・異族の意味かと思われます。
●至親の想い:このうえない親愛の気持ち。
●瞻前顧後:事を処するに、能く前後を顧慮する。事の終始をすべはかること。あまりあちらこちらを顧慮しすぎて態度の定まらぬこと。
●悽愴:かなしみいたむ。
●夷険:土地の平らなことと、けわしいこと。順境と逆境。ここでは危険な土地の意味かと思われます。
●綺羅:あやぎぬとうすぎぬ。美しい着物、またそれを着た人。
●顧眄:ふりかえってみる。又、見まわす。
●珍羞:めずらしい料理。うまい食べ物。
●遞薦:こもごもすすむ(次々とすすめられる)
●濡禄:多額の報酬(俸酬)。
◎濡禄:真本千金方では「〔酉+靈〕?(レイリョク)」、静嘉堂文庫本千金方では「??(レイロク)」、宋改本千金方では「??」としています。
◎??:美酒。うまざけ。
◎夫一人向隅、満嘗(満堂?)不楽:備急千金要方(千金要方刊行会・毎日新聞開発株式会社共編)によると「病人がひとり家の一隅にひっそりと臥し、家中すべてがうつうつとして楽しまずにいるのであり、」と訳されています。
◎一人向隅:漢の劉向の撰する『説苑』巻五貴徳篇のなかに、「今、堂に満ちて酒を飲む有り、一人有りて独り索然として隅に向かって泣く、則ち一堂の人皆楽まず」とある。すなわち、家族内に一人でも病人があれば皆が楽しくないのに、医者だけが平気でいてはいけないという意味。(杉立義一著『医心方の伝来』より)
★中国では、医者にご馳走やお酒を振る舞う習慣があることが窺えますが、日本ではどうなのでしょうか?丹波康頼が「??」を「濡禄」にした意図には、文化や習慣の違いがあるのかも知れません。
●満堂:電子テキストでは「満嘗」。◎真本千金方では満堂。半井家本医心方でも「堂」のようにも見えますが…?
●苦楚:苦痛。
●斯須:しばらく。
●安然:安心したさま。ゆっくり遊ぶさま。
●至人:充分に道を修めた人
●多語調笑(?笑):多弁、嘲笑。
●談謔:たわむれる。ユーモア。
●諠譁:かまびすしくさわぐ。あらそい。いさかい。
●衒耀:自分の才能学識をほこらしげに示す。
●?毀:そしる。悪く言う。非難。
●昂頭戴面:得意満面胸を張り。備急千金要方(千金要方刊行会・毎日新聞開発株式会社共編)より。
●膏肓:膏は胸の下のほう、肓は胸部と腹部の間の薄い膜。治療しにくい部分。
●陽徳:表の徳、他人に見える善行・徳。
●陰徳:裏・かげの徳、他人に見えない善行・徳。
●鬼神:天地自然、神霊。
●陽悪:他人に知られる悪事。
●陰悪:他人の知らない悪事。
●経略:天下を経営し、四方を攻め取る。国家を治める。
●虻虫:駆?血薬で通経薬、月経困難や下腹満痛に用いる。抵当湯、抵当丸、大黄庶虫丸など。
●水蛭:駆?血薬で浄血薬、月経不順や月経困難、子宮筋腫など血証に用いる。抵当湯、抵当丸、大黄庶虫丸など。
●忠恕:真心と思いやりの心。