宗教と社会学会プロジェクト「戦死者のゆくえ」2000/05- 
代表 川村邦光(大阪大)

  • 趣意
     戦後、54年経った今日でも、戦死者の問題が取り沙汰されている。それはやはり戦死者のゆくえがいまだに定まっていないからに他ならないだろう。しかし、強いて戦死者のゆくえを決めてしまうのも考えものだと思われなくもない。
     毎年、8月になると、政府主催の式典に戦死者が呼び戻される。今では、年中行事とな っまっているが、ほとんど関心を抱かれていないようにも思われる。戦死者を知っている遺族は年老いて、そのうちいなくなるとも予想される。50回忌の法要を終えて、すでに弔い上げになっているかもしれない。だれも口にはしないが、戦死者が忘れられるときがやがてではなく、間もなく訪れるだろう。
     今年の8月、靖国神社の見直しが官房長官によって語られたが、数日後にはほぼ取り消 されるにいたっている。政府のたんなる思い付きに過ぎなかったのか、たいして反響はなかったようだ。このような政府の政治のもとでは、戦死者は浮かばれないというべきだろうか。それはともかくとして、戦死者がどのように祭祀されていったのか、あるいは顕彰されていったのか、それが歴史的にどうであったのか、また現状はどうなのかについて、あらためて考えてみることが求められていると思われる。
     このプロジェクトでは、戦死者をいわゆるモアジア・太平洋戦争モの兵士・戦闘員の死者に限定しない。というのも、その際には、国家総動員体制のもとで、一般国民も戦時動員されて、死を余儀なくされたからである。また、戦死者をモ日本国内モに限定しない。調査、研究対象が広がり過ぎる恐れもないわけではないが、モ旧日本国民モも海外の日系人もモ日本モとの関わりで戦死したからであり、また戦死者の祭祀・顕彰においては諸外国との比較も大切だと考えるからである。そして、戦争をモアジア・太平洋戦争モに限定しないで、とりあえず近代戦争を対象として、歴史的な研究を目指したいと考えている。
     大きなテーマとしては、「戦死者の祭祀・顕彰の歴史と現在」としたい。そして、個別的なテーマとしては、以下にあげるものを予定している。
    ○ 戦争関連記念施設・建造物の歴史と現在(靖国神社、護国神社、千鳥ヶ淵、忠魂碑・忠霊塔、陸海軍墓地、広島・長崎、沖縄「平和の礎」・各県の慰霊碑、戦争資料館・博物館、遺骨収集)、また諸外国との比較
    ○ 日本遺族会の運動の展開(海外の遺族会も)
    ○戦死者をめぐるフォークロア・戦記物・戦争記録、およびその表象・言説(祭祀・供養の仕方・諸宗教の間での相違、幽霊譚・祟り譚・講談での語り、T自分史_での戦死者、朝鮮・台湾の戦死者、満州引き揚げ・ソ連抑留の死者、日系人も含めて)皆さんの研究したいテーマがありましたなら、お知らせください。川村邦光(文責)・田中雅一
  • おことわり
    ○関心のある人はどなたでも歓迎いたします。
    ○報告者を募っております。「宗教と社会」学会に関わりのない方でも。
    ○研究会終了後、懇親会を開きます。ふるってご参加してください。
    ○会場などについては、大阪大学日本学研究室のホームページをご覧になってくださ
    い。(ただし、建物の形が少し違いますのでお気をつけください)
  •    

    第1回研究会
    ○5月26日(金)16:30〜18:30
    ○大阪大学(豊中キャンパス)文学部日本学棟403教室で開催します。
    ○報告者:川村邦光(大阪大学)「“戦死者”とは誰か―若干の問題提起」
         丸山泰明(大阪大学・院)「戦死者と近代スピリチュアリズム」

    第2回研究会
    ○日時:7月12日(水)15:30〜17:30
    ○会場:大阪大学(豊中キャンパス)待兼山会館2階
    ○特別講演:山折哲雄氏(京都造形芸術大学大学院長)「『骨』―骨の折れる話」

    第3回研究会
    日時:11月24日(金曜日) 14:30〜17:30
    <会場>大阪大学(豊中キャンパス)待兼山会館2階
    <報告者>
     野上元(東京大学社会情報研究所・日本学術振興会特別研究員)
       「<書くこと>と<鎮魂> ――大岡昇平の「戦争文学」を題材に」
     田中雅一(京都大学人文科学研究所)
       「死者とともに歴史をふりかえる――米陸軍創設記念日パーティのテキストと     ビデオの分析」

    第4回研究会
    日時:3月30日(金曜日) 14:30〜17:30
    <会場>大阪大学(豊中キャンパス)待兼山会館2階
    <報告者>
    佐藤壮広(国際宗教研究所研究員・立教大学大学院博士後期課程)
       「戦死者のこえをきく―ユタの儀礼と沖縄戦の記憶」(仮題)
    冨山一郎(大阪大学)
       「『戦場の記憶』その後」

    課外活動
    日時:7月14日(土曜日) 午後
     山折先生を囲んで (詳細は事務局まで)

    第5回研究会
    ○日時:10月5日(金曜日) 13:30〜17:00
    <会場>大阪大学(豊中キャンパス)待兼山会館2階会議室
    <報告者> 報告要旨
    全成坤(大阪大学大学院)
       「植民地期朝鮮における宗教政策と『檀君』思想をめぐって」
    石附馨(大阪大学大学院)
       「ヤマト嫁の語りにみる“沖縄戦の記憶”」
    矢野敬一(静岡大学)
       「『戦死者』についての語りと『軍国の父』」
    <討議者>
    菅浩二(国学院大学大学院)
    真鍋昌賢(国際日本文化センター)
    司会:川村邦光(大阪大学)

    第6回研究会
    ○日時:2月22日(金曜日) 13:30〜17:00
    <会場>大阪大学(豊中キャンパス)待兼山会館2階会議室
    <報告者>発表要旨
    丸山泰明(阪大大学院)「八甲田山雪中行軍遭難事件死者の靖国神社合祀論争を読む」
    菅浩二(日本学術振興会特別研究員・國學院大學日本文化研究所共同研究員)
        「台湾神社初代宮司・山口透について」

    第7回研究会

    ○日時 4月8日 (月) 13:30〜15:30
    <会場> 大阪大学豊中キャンパス 文学部本館中庭会議室
    <報告者>発表要旨
     植野真澄(阪大院)「戦後日本の傷痍軍人−白衣募金者としての傷痍軍人をめぐって」

    第8回研究会

    ○日時:5月31日(金)14:30〜17:30
    <会場>大阪大学(豊中キャンパス)待兼山会館2階会議室
    <報告者>
    喜多村理子(大阪大学大学院)
        「<徴兵除け祈願>から<武運長久>へ」

    第9回研究会

    ○日時:6月28日(金)14:30〜17:30
    <会場>大阪大学(豊中キャンパス)待兼山会館2階会議室
    <報告者> 
    木田元先生(中央大学名誉教授) 「私の戦争体験」
    <討議> 「戦後と戦争体験・記憶」
    <司会> 川村邦光(大阪大学)

    戦争はつづいている。アフガニスタンでも、パレスチナでも。9.11から、世界は変貌
    したという。本当なのか。なにが変わったというのだろうか。戦争か、テロリズム
    か、光景か、ナショナリズムか、顔つきか。ただ事態はますます凶悪化し、悲惨を極
    めているとしかいえないのではなかろうか。
     さて【戦死者のゆくえ】研究会は9回目を迎えます。今回は、哲学者の木田元先生
    く中央大学名誉教授)をお迎えします。「私の戦争体験」という題で講演していただ
    く予定です。先生は、戦前、満州(現、中国東北部)の新京(現、長春)で中学時代を過
    ごし、敗戦直前に江田島の海軍兵学校に入学しています。まさしく身をもって戦争と
    戦後を過ごされています。そして、哲学をいわば生業として選択されています。ここ
    に、どのような経緯があるのかおそらく著書のなかには記されていないと思われま
    す。哲学者としての営みのなかに、戦争と戦後がどのように介在しているのか、戦前
    ・戦中の哲学・思想の状況とどのように関わっているのか。最前線の哲学者の言葉を
    お聞きし、戦争、あるいは戦死者が哲学のテーマとして、どのように浮上してくるの
    か、ともに考えたいと思います。
     1928年 山形県に生れる
     1945年 海軍兵学佼に入学
     1953年 東北大学文学部を卒業
     著書:『現象学』『ハイデガーの思想』『偶然性と運命』(以上、岩波新書)
    『ハイデガー』『メルロ=ボンティの思想』『哲学と反哲学』『ハイデガー』『「存
    在と時間」の構造』(以上、岩波書店)
    『反哲学史』(講義社)『哲学以外』(みすず書房)ほか

    第10回研究会

    ○日時 12月13日(金)13:30〜17:00
    ○会場 大阪大学(豊中キャンパス)待兼山会館2階会議室
    ○報告者発表要旨
       丸山泰明「出来事と死者をめぐる記憶―雪中行軍遭難事件:1902〜2002」
       川村邦光「女の靖国をめぐって―自己犠牲とは何か」

    ※研究会の終了後、懇親会を開きますので、ぜひご参加ください。



    代表       大阪大学文学部日本学 川村邦光   
    事務局                TEL.06-6850-6111
                      FAX.06-6850-5131