共同研究:基盤研究班(C班)
家族と愛の研究班長:冨山 一郎(客員教授/同志社大学グローバルスタディーズ研究科)
コロナ禍での外出自粛により、夫婦間・親子間の不和・虐待や、一人親家庭の経済的困窮があらためて浮き彫りになったように、今日、「一対の親が子どもを献身的に養育する家庭」すなわち「核家族」を標準として行われる政策や事業は、多くの齟齬や歪みを生じさせている。 女性の社会進出や、人々の性的指向の多様化、さらには人工的生殖の増加に伴い、家族の「形」は著しい変化を被りつつあるにもかかわらず、我が国の政策や立法が想定する家族の「イメージ」のほうは、「異性どうしの両親と子ども」という旧来のスタンダードに固執しつづけているのである。 家族の実情とイメージのあいだのこうしたギャップは、たとえば夫婦別姓の法制化や、民法の嫡出推定規定の緩和をめぐる議論を停滞させ、ひいては、少子化や非婚化といった社会問題の遠因ともなっている。
本研究班は、「家族」をとりまく法的、制度的、歴史的、社会文化的、医学的、思想的文脈を横断しつつ、また、他の国々や文化の実情に照らした比較研究を忘れることなく、このギャップを埋めるための新たな超域的パラダイムの確立を目指す。 その際、本研究班では、その特色となりうるひとつの問題系をアプローチの導線に据える。「愛」(夫婦愛、家族愛、親子愛——とりわけ子の親にたいする愛)の問題系である。 愛を媒介としてセクシュアリティと生殖および次世代育成を一体化させる「核家族」=「愛の共同体」という価値観は、それを生み出し、それによって支えられることを望んだ西欧近代の社会構造や生産様式の変貌とともに、その実質的な役割を終えたようにみえる。 にもかかわらず、それは夫婦別姓反対派の唱える「家族の絆」のような道徳的価値に姿を変えて、今日も生き存えている。 その原動力は何であり、いかなる言説装置がそれを支えているのだろうか。 これらの問題の解明は、件のギャップの解消を妨げる知的制止を解くことに資するものと思われる。
研究期間:2022年4月 ~ 2025年3月
班員(学外)
冨山 一郎[班長](同志社大学)
班員(所内)
立木 康介[副班長]
直野 章子[副班長]
酒井 朋子
藤原 辰史
2024年08月01日 更新