京都大学人文科学研究所

研究者・活動について
ポスト゠ヒューマン時代の起点としてのフランス象徴主義

共同研究

ポスト゠ヒューマン時代の起点としてのフランス象徴主義班長:森本 淳生

 19世紀を通じて大きな成長をとげた資本主義経済とテクノロジー、識字率の向上と出版・メディアの発展、第三共和政とともに決定的となった世俗化゠脱キリスト教化は、社会と人々のメンタリティを決定的に規定すると同時に、こうした事態に対する批評意識を生み出した。 フランス象徴主義はその端的な表現である。 象徴主義者たちは、ブルジョア社会と産業資本主義に強い嫌悪感を示しているが、貨幣やテクノロジー、同時代の経済社会に対する考察は、その思索の本質的課題のひとつである。 また、伝統的な信仰が成立しなくなった時代にあって「超越」との新たな関係が模索される。 こうした社会や技術、宗教をめぐる省察を背景として、文学と芸術の新しい方式が、自由詩や内的独白をはじめとする様々な技法上の試みを通して追究されたが、そうした技法的変革も、自己の社会的規定性に対する批評意識によるものである以上、自己自身のあり方の変革を伴うものだった。 詩人はたんに作品を書く人間ではなく、作品制作を通して自己の実存を変える者なのである。 現在、グローバル経済と金融資本主義が席巻し、新しいテクノロジーが社会を一変させているが、私たちはその恩恵を享受するとともに強い息苦しさを感じてもいる。 伝統的な信仰は瀕死の状態だが、原理主義や新興宗教が勢いを持ち、他方で「世界の終焉」が強く感じられる中で、近代的な「人間」以後の生存のあり方が模索されてもいる。

 19世紀後半に象徴主義が取り組んだ問題は、今日、こうしたポスト゠ヒューマン時代を生きる私たちが直面する課題に通じる。 その「起点」として象徴主義を複眼的に捉え直し現代を理解する示唆をえること、これが本研究の目的である。

研究期間:2021年4月 ~ 2026年3月

班員(所内)

森本 淳生[班長]、 菅原 百合絵、 藤野 志織

2022年07月11日 更新

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